3.1
城のある町にて
梶井基次郎
可愛(かわい)い盛りで死なせた妹のことを 落ちついて考えてみたいという若者めいた感慨から、峻はまだ五七日を出ない頃の家を出てこの地の姉の家へやって來た。
ぼんやりしていて、それが他所(よそ)の子の泣聲だと気がつくまで、死んだ妹の聲の気持がしていた。
「誰だ。暑いのに泣かせたりなんぞして」
そんなことまで思っている。
彼女がこと切れた時(shí)よりも、火葬場での時(shí)よりも、変わった土地へ來てするこんな経験の方に「失った」という思いは強(qiáng)く刻まれた。
遠(yuǎn)く海岸に沿って斜に入り込んだ入江が見えた。――峻はこの城跡へ登るたび、幾度となくその入江を見るのが癖になっていた。
海岸にしては大きい立木が所どころ繁っている。その蔭にちょっぴり人家の屋根が覗(のぞ)いている?!·饯欷悉郡坤饯欷坤堡翁鳏幛扦ⅳ盲?。どこを取り立てて特別心を惹(ひ)くようなところはなかった。それでいて変に心が惹かれた。
なにかある。ほんとうになにかがそこにある。と言ってその気持を口に出せば、もう空ぞらしいものになってしまう。夢で不思議な所へ行っていて、ここは來た覚えがあると思っている。――ちょうどそれに似た気持で、えたいの知れない想い出が湧いて來る。
「ああかかる日のかかるひととき」
「ああかかる日のかかるひととき」
いつ用意したとも知れないそんな言葉が、ひらひらとひらめいた。――
「ハリケンハッチのオートバイ」
「ハリケンハッチのオートバイ」
先ほどの女の子らしい聲が峻(たかし)の足の下で次つぎに高く響いた。丸の內(nèi)の街道を通ってゆくらしい自動(dòng)自転車の爆音がきこえていた。
町の屋根からは煙。遠(yuǎn)い山からは蜩(ひぐらし)。